凍結標本作製の際に、通常の組織は切片作製に適した硬度を得るため-20℃前後に冷却する。脂肪が多い組織では油成分を固めるために更に低い温度(-35℃以下)が用いられるが、脂肪以外の組織や凍結包埋剤が硬くなり過ぎ、切片の形態を保持できないなどのトラブルが起こりやすい。こうした問題を解決するために、界面活性剤の添加や組織に針で穴をあけるなどの工夫が報告されているが、いずれも十分な成果は得られておらず、臨床からの要望に十分に応じられていないのが現状である。 平成25年及び27年度採択の奨励研究課題として“室温下では固化しない特色を活用した超低融点ゼラチンの組織標本作製への応用”“低融点ゼラチンを活用した簡便セルブロック作製法の開発”を行い、凍結包埋剤に低融点ゼラチンを添加すると切片の強度が増して良質な標本が作れることを見出した。また、「脂肪組織の凍結切片作製が可能」として市販されている凍結包埋剤のpHが一般の凍結包埋剤(pH7~8)に比べて低い(pH6~7)ことから、既存の凍結包埋剤に低融点ゼラチンとpH調整剤として酢酸を添加して試したところ、脂肪組織を含む検体でも良質な凍結標本の作製が可能であることがわかった。 今回の奨励研究においては、酸の種類と添加量を検討しカルボン酸が有効であることを確認した。また、凍結標本の作製時に重要な条件の一つであるブロックの凍結方法も冷却用金属ブロックやサーモグラフィーを用いて検討した。使用する機器や冷媒・モールドの種類、設定温度、凍結時間の最適化を図り、超低温で短時間凍らせる方法を見直し、低温状態を一定時間保った状態で凍結することにより従来脂肪の薄切に適温とされていた-35℃より高い温度(-20℃前後)での薄切を可能とし、脂肪とその他の組織が良好な状態の標本を作製することができた。 今後、どのような施設においても脂肪を含む組織の迅速診断に適切な凍結標本の作製が可能となるよう研究の成果をまとめ普及に努める。
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