研究実績の概要 |
分子鋳型ポリマー(MIP)は, ターゲット化合物を構造的かつ化学的に捕捉できる高架橋特殊ポリマーである. これを固相充填剤とすれば, これまでの抽出法では実現できなかった高選択的な抽出が可能になると考えられる. そこで本研究では, 大きな社会問題となっている危険ドラッグに関し, その主たる薬物群であるカチノン類を生体試料中から高選択的に抽出できる前処理法の開発を試みた. カチノン類は覚醒剤と類似の化学構造を有していることから, 覚醒剤に高い親和性を示すMIPを用いた固相抽出カートリッジ(AFFINILUTE MIP Amphetamines, 25mg/3mL)がカチノン類の抽出にも適用可能か検討した. 分析対象にはカチノン類14種(メトカチノンおよびカチノンは当所で合成した)を使用した. まずMIPへロードする際の試料溶液の液性をpH4~10の範囲で変化させ, 標準溶液の回収率を比較したところ, pH6で最も高い回収率を得た(α-PPP(59%), その他84~96%). 回収率と分子構造の相関から, 芳香環上のpara位の置換基の種類や有無はあまり回収率に影響を与えないが, 側鎖アルキルの伸長やアミノ基へのピロリジン環の導入は回収率を低下させることがわかった. 次に, ヒト尿への添加回収実験を行ったところ, いずれのカチノン類でも, 1~1000ppbの範囲において検量線は高い直線性を示した. 回収率は, 標準溶液の場合より数~15%程度低減するものの, ポリマー系固相抽出法や液々抽出法と比較すると, 同程度もしくはそれ以上と良好な結果であった. マトリクス効果は数%程度と非常に低い値であった. 今後は血液試料についても検討していく予定である.
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