研究実績の概要 |
【背景と研究目的】名古屋市立大学蝶ヶ岳ボ診療所で経験した症例のうち最多の疾患(全体の40%)は急性高山病(AMS)である。高所での低酸素血症がAMSの主な原因であるが、必ずしも全登山者がAMSを発症するわけではない。このことは、AMSを誘発しやすい要因が他にも存在することを示している。経験上、登山中に充分な水分摂取ができていない場合にもAMSの症状が誘発されうることが分かっている。本研究の目的はAMSを予防できる水分摂取量を突き止めることである。 【方法】対象は2008~2015年に当該診療所を受診した登山者約1,000名。RO曲線にてAMS発症に関わる水分摂取量のcut-off値を算出し、この値を基にカイ2乗検定を行うことで、AMS発症と水分摂取量との関連を解析した。さらに、多変量ロジスティック解析にて、水分摂取量、性別、年齢、血中酸素飽和度を交絡因子としてAMS発症との関連を探索した。 【結果と考察】RO曲線から水分摂取量のcut-off値は、1,100mLであり、水分摂取1,100mL以上でのAMS患者数は88名、非AMS患者数は285名、水分摂取1,100mL未満でのAMS患者数は205名、非AMS患者数は447名であった。カイ2乗検定を行った結果、水分摂取量が1,100mLより多いとAMS発症が有意に少ないことが分かった(P=0.00745)。次に、多変量ロジスティック解析にて水分摂取量、年齢、血中酸素飽和度はAMS発症に関連することが分かった。従って、本研究の対象データではAMSの発症には水分摂取量、年齢、血中酸素飽和度が関連し、一定以上の水分摂取量はAMS発症の予防につながる可能性があると考えられる。今後は、対象患者数を増やすことで頭痛とAMS発症との関連についてより正確な解析としたい。
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