研究課題/領域番号 |
16H03599
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
理論経済学
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴村 興太郎 早稲田大学, 政治経済学術院, 栄誉フェロー (00017550)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2019年度)
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配分額 *注記 |
13,780千円 (直接経費: 10,600千円、間接経費: 3,180千円)
2019年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2018年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2017年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2016年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 厚生経済学と社会的選択の理論 / 厚生判断の情報的基礎 / 帰結主義と非帰結主義 / 順位情報依存的なルール / 順位情報独立的なルール / 厚生経済学と経済政策論のインターフェイス / 厚生主義的な情報的基礎 / 非厚生主義的・非帰結主義的な情報的基礎 / ペアごとの比較に依拠する投票ルール / ポジショナルな情報に依拠する投票ルール / 投票ルールの設計に関するドヌーの貢献 / 投票ルールの設計に対するドジソンの貢献 / 厚生経済学と社会的選択理論 / 経済政策論のミクロ的基礎 / 選択の機会と手続き / 厚生経済学と経済政策論の対話 / ペアごとの単純多数決コンテスト / 厚生経済学の理論と学説 / 社会的選択の理論 / 規範的判断の情報的基礎 / 最大幸福原理と最小不幸原理 / 福祉への潜在能力アプローチ / 経済理論 / 経済政策 / 経済思想 / 倫理学 / 規範理論 |
研究実績の概要 |
規範的経済学の情報的基礎を、厚生主義的な情報的基礎の批判的な考察を踏まえて拡大して、伝統的研究の拡張を図るとともに、情報的拡張の学説史的な背景と、その哲学的な意義を明らかにすることこそ、この研究計画の課題である。現代の規範的経済学は厚生経済学と社会的選択の理論という2つの翼を持つだけに、この研究課題も厚生経済学のサブ・プロジェクトと、社会的選択の理論のサブ・プロジェクトから構成される。 2018年度は、両サブ・プロジェクトを横断的に見て規範的な経済学が経済政策の構想と実装にもたらすメッセージと、経済政策の実践過程から規範的経済学が新たな展開を試みるべき重要なメッセージを複眼的に眺めて、規範的経済学と経済政策論のインターフェイスを充実させる試みを総括する著書を執筆すること、社会的選択の分野で数年にわたり研究の障壁となってきた難問を克服して、3つの研究論文を大きく前進させることを試みた。これらの論文の主題は、 (1)数学者ドジソン(ルイス・キャロル)が提案した Method of Marks が持つ性能を精密に解明すること、 (2)単純多数決ルールの性能の解明に貢献したコンドルセの研究と、有権者の候補者に対して表明する選好順序の全体像を社会的選択に反映させるルールを提唱したボルダの研究の間には、ペアごとの比較に基づくコンドルセ・ルールと、投票者のランキングに占める候補者のポジションを重視するボルダ・ルールとの鋭い対比が潜んでいる。本研究ではボルダ・ルールを代表例とするポジショナル・ルールが持つ性能を特徴つけることを試みる。 (3)コンドルセとボルダの同時代人のピエール・ダヌーはコンドルセとボルダの2つのルールの対立を止揚する試みをしたが、我々はダヌーの投票ルールを正確に表現してその公理化を遂行することを試みた。 これらの貢献を完成することが、2019年度の研究の大きな焦点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
規範的経済学と経済政策論のインターフェイスに関する研究を整理した著書『厚生経済学と経済政策論の対話』の執筆作業は2017年12月の時点でほぼ完成して、東京大学出版会から出版する軌道に乗っていたが、2018年1月に私の思わぬ重病が発見されたため、当初予定の海外出張を急遽次年度に延期すること及び著書の制作過程の足取りを遅らせることを余儀なくされることになった。だが、研究内容の充実と著書の原稿の作成に関しては、当初の計画以上に成果を挙げたと考えている。 選挙と投票の理論に関わる研究は、従来の隘路を突破する3本の論文に纏まって順調に進行している。 (1)ドジソンのMethod of Markに関する研究:19世紀オックスフォード大学の数学者ドジソン(ルイス・キャロル)は、選挙に際して投票者に一定の総票数を平等に配分して、候補者に対する投票数は(総票数の制約下で)投票者個人に委ねるという投票理論を示唆した。彼自身は深く分析しなかったこのルールに2つの公理を課して総票数が一意的に決定されることを論証する。 (2)ポジショナル・ルールの特徴付け:コンドルセの単純多数決ルールと対極にあるボルダの投票ルールは、各候補者が各投票者の選好ランキングのどの位置を占めるかという情報に重要な役割を与える点に特徴を持っている。この意味のポジショナル・ルールの特徴を精密に捉える研究は、現在でも非常に不完全な状態にある。本研究ではポジショナル・ルールの概念を精密に定義して、その概念の特徴付けを試みる。 (3)ドヌーの投票ルールの正確な表現とその公理化:ドヌーはコンドルセとボルダの同時代人であり、彼らの対立的な投票ルールをある意味で仲裁する試みを提案した。本研究は、彼の投票ルールを精密に表現して、その公理化を実行する。 これらの研究の進行状況は当初の想定を超える進行状況を示していて、順調な成果を生みつつある。
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今後の研究の推進方策 |
著書『厚生経済学と経済政策論の対話』(東京大学出版会)の出版計画は2018年5月にようやく完了して、研究のこの段階は成功裡に終結した。選挙と投票の理論に関する研究成果を3本の論文に完成させる計画も、ドジソンのMethod of Marksに関する研究は2018年度のうちに最終論文として完成して、2019年度に至って国際学術誌Oxford Economic Papersに出版されることが決定した。ポジショナル・ルールの特徴付けに関する論文も第一稿を完成して、分野の専門家のコメントを要請して改善作業に入っている。ドヌーの投票ルールに関する論文も、既に第一稿をほぼ完成して専門家グループに送付する作業を6月には開始する。 完了の見通しが立った研究と並行して、完成させるべき2つの研究課題が残されている。第一に、現在の社会的選択の理論の創始者ケネス・アロー教授に献呈する追悼論文集(Special Issue of Social Choice and Welfare in Memory of K. J. Arrowの編集者・著者として、この論文集を速やかに完成・出版する作業がある。第二に、社会的選択の理論を1970年代初頭から現在までリードしてきたアマルティア・セン教授の『集団的選択と社会厚生』の拡大新版が、2017年に公刊された。当初から彼の密接な随伴者として研究作業を重ねてきた私は、この拡大新版の信頼できる邦訳を作成・紹介することを、個人的な義務と考えている。この両任務を今回の研究計画と密接に関連させつつ完成する作業を継続している。両作業は、今回の研究プロジェクトの今後の企画と遂行に重要な関連性を持っている。 一方、選挙と投票の理論の前進の傍らで、このプロジェクトの厚生経済学パートの推進は、相対的に遅れている。残された期間には、この側面の研究の推進に拍車をかける所存である。
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