研究課題
基盤研究(B)
本研究では、強い軌道揺らぎを有する非磁性籠状物質PrT2Al20(T = Ti, V)を対象に、「軌道揺らぎによる新奇な量子物性」の開拓を目的に研究を行った。特に、極低温度域におけるキャパシタンス法を用いた精密熱膨張・磁歪測定に着目して研究を進めた結果、PrTi2Al20の強四極子秩序に関して新たな知見を得ることができた。この強四極子秩序の秩序変数は、これまでのところ、4 T以上の磁場中における中性子散乱や核磁気共鳴により、O20であると考えられてきた。しかしながら、今回行った熱膨張・磁歪測定に加え、精密磁化測定、核磁気共鳴測定の結果から、低磁場の秩序変数はこれとは異なっており、[100]方向に数 Tの磁場中で、低磁場相から高磁場相へのクロスオーバーが生じていることが分かった。熱膨張・磁歪の異方性から、低磁場相の秩序変数はO20とO22が混じり合った状態である可能性が高い。さらに興味深いことに、このクロスオーバーが生じる磁場付近では、100 mK以下の極低温度域で熱膨張係数が低温に向かって急激に変化すると同時に、符号反転を示すことが分かった。一般に熱膨張係数の符号反転は何らかの量子臨界性点の存在を示唆するものと解釈される。極めて低い温度のみで確認される現象であること、さらにこの物質が増強核磁性を示すことを考慮すると、何らかの意味で核スピン系の寄与を捉えている可能性が高い。充填スクッテルダイトPrRu4P12では核スピンとf電子がカップルした多重項の存在が指定されているが、本研究では、このような核スピンとf電子の複合系における量子相転移を捉えた可能性があり非常に興味深い。今後は、これが本当に核スピンの寄与で理解できるのか、さらなる検証を進めると同時に、さらにここにf電子の軌道揺らぎが加わることでどのような量子状態が出現するのかといった新たな研究につなげたい。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
PHYSICAL REVIEW LETTERS
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