研究課題
基盤研究(B)
大動脈解離は致死的な成人大動脈疾患であり、中高年男性に好発し突然死を来すため社会的影響が大きい。解離の分子病態は不明で、発症を予測することはできず、緊急外科手術以外に積極的な治療法はない。今回の研究では、mTORを中心とする細胞増殖応答が解離病態の中枢であるとの仮説を検証した。mTOR阻害薬であるラパマイシンは、マウスにおいて解離発症に先立つ細胞増殖を抑制すると共に解離発症を完全に予防し、解離発症後の組織破壊増悪も阻止した。そのメカニズムとして、平滑筋細胞のStat3活性化が組織保護的に働くことが示唆された。一方、外膜炎症細胞Stat3は組織破壊応答を亢進させ解離病態を増悪させると考えられた。
これまで大動脈解離がどのように起こり、進行するかはよく分かっていなかった。今回の研究から、大動脈解離が起こる根本的な仕組みの一端が明らかになった。動物モデルでは効果的な予防・治療法が示され、ヒト大動脈でも動物モデルと同様の反応が起こることが示された。今回の研究からは、血圧や血流で大きなストレスを受ける大動脈が100年間持ちこたえる仕組みが明らかになり、その異常としての大動脈解離の仕組みの一部が解き明かされてきた。このような発見は、予防法や治療法の開発、病気を起こす可能性がある人の発見や、起こった後の診断法の開発に役立つことが期待される。
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