研究課題
基盤研究(B)
異なる気候帯に属する湖沼のメタン動態、メタン酸化細菌(MOB)叢およびメタン栄養食物網の気候応答を理解するために、熱帯のフィリピン・セブンレイク、亜熱帯の台湾・翡翠水庫、温帯の琵琶湖において比較調査を実施した。翡翠水庫では、厳冬年と暖冬年で一回循環と部分循環を交互に繰り返し、暖冬年後の成層期にメタン貯留が発達するとともに、嫌気的メタン酸化菌が優占した。翡翠水庫の暖冬年はセブンレイクス、厳冬年は琵琶湖のメタン・MOBの鉛直プロファイルと似たパターンを示した。しかし、メタン栄養食物網には明瞭な緯度間変異がみられなかったことから、低緯度湖沼ほどメタンの大気放出ポテンシャルが高くなると示唆された。
従来、熱帯湖沼は周年成層が発達する部分循環湖とみなされていたが、本研究により、熱帯湖沼もモンスーンの影響で循環すること、また、全循環の有無は深度依存的であることを明らかにした。季節風や台風などの物理攪乱時に大気放出されるメタンフラックスを定量的に評価するために、高時間解像度観測とメタン生成・消費のプロセス研究が今後の課題として挙げられた。我が国では、温暖化に伴う湖沼の循環不全と底層の貧酸素化が懸念されており、琵琶湖では、全循環が停止する異常事態も発生している。本研究による熱帯・亜熱帯湖沼の知見は、将来的に予想される温帯湖沼の熱帯化が生態系および社会に及ぼすインパクトを予測する上で有用である。
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