研究実績の概要 |
申請者らは、予備的な実験により、ダイオキシン処理された細胞株において、ウイルス感染時に活性化される自然免疫応答が抑制されることを見出した。本研究課題では、このダイオキシン曝露による自然免疫抑制に関わる分子機構を詳細に検討することを目的とした。そのアプローチとして、申請者らが、芳香族炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor;AHR)がTCDD-inducible poly(ADP-ribose) polymerase (TIPARP)の発現を介してTBK1の機能を阻害することで、様々なウイルス感染に対するI型IFNsの発現誘導を負に制御することを見出したことに焦点をあてて、解析を進めることを計画した。 これまでのところ、代表的なダイオキシンである2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD)やそれ以外のAHRリガンド(3-methyl-colantrene(3-MC)、Benzo(a)pyrene)を細胞に処理したところ、インフルエンザウイルス(FluV)感染によるIFN-β mRNAやそのタンパク質産生誘導が抑制されることを確認した。その応答はAHRやTIPARPの欠損細胞では見られないことから、AHRやTIPARP依存的であることを示した。さらに、マウスの腹腔に3-MCを注入したのち、FluVを経鼻的に感染させ、感染後の肺胞洗浄液を回収し、解析を行ったところ、IFN-βタンパク質量の減少やウイルス量の増加が認められた。 このような結果より、ダイオキシン類の曝露によって、AHR-TIPARP依存的に、ウイルス感染時の自然免疫応答が抑制されることを見出した。今後はこのような応答を逆に利用することで、自己免疫疾患などの病態に対する治療応用への展開を模索したい。
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