研究課題/領域番号 |
16H06881
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
刑事法学
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
南迫 葉月 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (90784108)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2019-03-31
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研究課題ステータス |
中断 (2017年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2017年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2016年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 司法取引 / 答弁取引 / 協議・合意 / 訴追裁量 / 審判範囲 / 自白 / 刑事法学 / 合意制度 |
研究実績の概要 |
本研究は、新たな証拠収集手段として導入された「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意」(以下「合意制度」と呼ぶ。)が適正に運用されるべく、裁判所が果たすべき役割を考察するものである。 本年度は、まずアメリカの答弁取引における裁判所の役割を調査しつつ、その理論的背景を考察した。米国では各法域によって、検察官と被告人の間の協議・合意をどのように裁判所が審査するかが異なる。本年度は、応用的・発展的文献をもとに、そのような制度間の相違の背景にある理論的基礎を調査した。様々な裁判所の関与の在り方を参照することは、合意制度における裁判所の役割を考察する上で多様な分析・比較を可能とする。さらに、その関与の在り方を正当化する根拠を明らかにすることで、わが国の法解釈にとっても有用な示唆を得られる。 次に、米国の考察を参照しつつ、合意制度における裁判所の審査の在り方を考察した。合意制度では、裁判所は協議に関与せず、事後的に合意及び合意に基づく証拠を審査するに留まる。すなわち、裁判所は公判で検察官から合意内容書面の提出を受けて合意内容を把握したうえで、合意の履行を監督し、合意に基づく証言や供述の信用性を審査する。審査場面としては、合意をした協力者本人の公判及び協力対象である他人の公判とが考えられる。 合意制度において検察官が恩典を付与する根拠はその訴追裁量権限(刑訴法248条)にあるとされることから、いずれの場面についても、裁判所は如何に検察官の訴追裁量を尊重しつつ、合意の適正化を確保するかが問題となる。本年度は、わが国における一部起訴や公訴権濫用論などの議論を参照して、当該問題を具体化することに努めた。さらに今後は、訴追裁量の限界を扱う判例・学説を考察することで、裁判所の審査の在り方について結論を提示できるよう研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、本年度はアメリカ法の発展的・応用的調査を進め、当該調査結果をもとに日本法の考察を行う予定であった。前者のアメリカ法の調査は概ね完了したが、後者の日本法の考察はなお不十分である。 アメリカでは、答弁取引への裁判所の関与形態が法域によって大きく異なる。一方で、連邦及び連邦規則に倣う多くの州では、裁判所の取引交渉への関与を禁止する。その理由として、裁判所の関与が被告人に取引に応じるよう強制する効果を持ちうること、公正な裁判を期待できないこと、検察官の訴追裁量を侵害すること等が指摘される。これらの法域では、裁判所は事後的に答弁の任意性や合意内容を審査する。その際、裁判所は答弁及び答弁合意を受理するか否かを決定する権限及び量刑権限を有していることから、合意された量刑が犯罪事実等に見合わないと判断した場合、合意の受理を拒むことができる。他方で、近時、裁判所がより積極的に取引交渉に参加しており、例えば被告人に取引上の選択肢について情報提供を行う州も増えつつある。その正当化理由として、中立的立場から信頼できる情報を提供できること、検察官の権限濫用や弁護人の弁護過誤の有無をチェックできること等が挙げられる。 日本法の考察としては、①合意制度の全般的調査、②従来の判例・学説を踏まえた問題の明確化、③②の問題に対する解釈論・解決策の提示を予定していた。現段階では①②を終えたところであり、なお③の考察を進められていない。そこで、今後はアメリカ法及び日本法の従来の議論を参照し、合意制度を適正に運用するために在るべき裁判所の審判範囲を提示することに取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、アメリカ法の研究結果を踏まえ、日本法の合意制度における裁判所の審査の在り方を検討する。その際、問題となるのは、合意が検察官の訴追裁量権限に基づいて行われることから、そのような裁量に基づく合意に対する裁判所の審査の可否・程度である。 当該課題に取り組むためには、訴因制度や訴追裁量について、従来の議論をも踏まえつつ、その趣旨に立ち返った検討を行う必要がある。そこで、わが国における一部起訴や公訴権濫用論など訴追裁量の限界を扱う判例・学説を考察する。裁判所の審理範囲については、一部起訴が行われた場合に、裁判所が訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきかが議論されてきた。また、検察官の訴追裁量に対する司法審査の在り方を議論する「公訴権濫用論」との関係も考察する必要があろう。公訴権濫用論では、現行法が想定する裁判所と検察官の役割ないし権限分配のあり方が議論されてきたと考えられるからである。 以上の日本法における従来の議論とアメリカ法の考察を踏まえて、合意制度における裁判所の審査の在り方について結論を提示することを目標とする。アメリカ法については、最新の論文などが出れば適宜調査に当たり、これまでの研究を補足する。 最後に、アメリカ法・日本法に関する研究成果を総合的に整理・分析し、博士論文における研究成果と組み合わせることで、研究の総括を行う。
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