研究実績の概要 |
大脳新皮質は感覚、運動といった多様な情報を、新皮質固有の複雑なニューロンネットワークにより処理していると考えられている。本研究課題では、新皮質局所の情報処理を促進させる役割を担うとされる血管作動性腸管ペプチド(VIP)陽性抑制性ニューロンに着目し、「個々のVIP細胞」「VIP細胞の細胞集団」を取り巻く特異的入出力構造を明らかにすることで、新皮質局所の活動性制御機構に迫った。 まず、ニューロン特異的高発現型アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを開発した。ニューロン特異的プロモータとTet-Offシステムを組み合わせたAAV-SynTetOffにより、従来のAAVベクターの約40倍もの発現量を獲得することに成功した(Sohn et al., PLoS ONE, 2017)。 このAAVベクター等を用いてマウス第一次体性感覚野第2/3層VIP細胞を蛍光標識し、免疫組織化学を組み合わせることで、VIP細胞へのシナプス入力密度を評価したところ、VIP細胞は、傍細胞体部位(細胞体や近位樹状突起)と遠位樹状突起とで異なる細胞種からのシナプス入力を受けることがわかった(Sohn et al., Front Neuroanat, 2016)。 また、VIP細胞の細胞集団としての入出力を俯瞰するため、AAVベクターを用いて、「入力部位(細胞体や樹状突起)」と「出力部位(軸索)」を別々に可視化する方法を編み出した。この「入力部位」と「出力部位」の分布の差を評価することで、一つ一つのニューロンを再構築することなく、細胞集団としての入出力フローを確認したところ、VIP細胞の入力部位と出力部位は、皮質表面に対して水平方向(層構造)や垂直方向(カラム構造)において特異的な構造を有することが判明した(Sohn et al., PLoS ONE, 2017)。 以上のことから、大脳新皮質に存在する多様なニューロンは、複雑な回路構造を持つ一方で、決して乱雑な構造ではなく、特異的な回路構造を取り、その結合様式は一定の秩序・特異性が存在することがわかった。
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