本年度、わずか5ヶ月という短い期間ながら以下の2点が科研費の補助を得て遂行される事ができた。まず、5月に台湾大学において行われた国際会議でSpinoza and His Geometric Orderとの題で発表を行った。さらに、近世において非常な影響力を有していた懐疑主義に対してスピノザがどのように議論を行ったかを調査し、英語論文Spinoza and Scepticismを作成した。 1点目に関しては、スピノザの著作における幾何学的論証に焦点を当てたものである。『短論文』その第1付録、『デカルトの哲学原理』、そして『幾何学的秩序によって証明された倫理学』においては幾何学的論証が行われている。この幾何学的論証とはエウクレイデス『原論』をモデルとしたものであり、デカルト『省察』第2答弁においても用いられる。スピノザは『短論文』第1付録から幾何学的論証を行っており、その使用法は徐々に変化している。この点を当発表は指摘した。 2点目に関しては、近世における懐疑主義とスピノザの方法に関してである。ポプキンはスピノザにおける懐疑主義の反駁に対して否定的に捉えていたが、当論文は、スピノザの著作に散見される懐疑主義への言及を洗い直し、スピノザもまた懐疑主義に対抗する議論を行っていると論じた。ここで重要なのは、懐疑主義によって反駁されないような方法であり、本研究の目的であるところのスピノザにおける幾何学的秩序の考察に寄与するところのものである。
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