研究課題
特別研究員奨励費
本研究ではこれまで、一酸化窒素(nitric oxide ; NO)が、エピゲノム制御酵素の酸化修飾(S-ニトロシル化;SNO化)を介してその酵素活性を抑制し、エピジェネティクス変化をもたらすことにより複数のがん関連遺伝子の発現変動をもたらす可能性を見出した。そこで、これを証明するために、独自に開発したスクリーニング系を用いて当該エピゲノム制御酵素のSNO化形成を強く阻害する化合物Xの選定に成功した。今年度は化合物Xの薬理学的特性を詳細に解析し、また、炎症発がんモデルに対する薬理効果を検討し、エピゲノム制御酵素のSNO化形成の病態生理的意義を明らかにすることを目的とした。まず、計算科学と生化学的手法を組み合わせることにより、化合物Xはドッキングシミュレーションで得られたエピゲノム制御酵素との予想結合部位に作用することでSNO化阻害能を発揮することが示唆された。加えて、化合物XはNO消去能を持たず、他のタンパク質のSNO化形成に影響を与えないことから、分子特異的SNO化阻害薬であることが推定された。また、この性質と相関し、化合物XはSNO化形成に伴って誘導される細胞のエピジェネティック変化を有意に抑制することが分かった。つぎに、NO誘発性発がんをモデル化した細胞系やマウスに対する化合物Xの効果を検討したところ、顕著な発がん抑制効果が得られたことから、がん病態形成にエピゲノム制御酵素のSNO化形成が大きく関与している可能性が示唆された。以上より、化合物Xはエピゲノム制御酵素のSNO化形成を阻害し、NOを介した一連のエピジェネティック変化を特異的に抑制することにより、結果としてがん病態形成を軽減させたと推定された。本研究の内容は、NOストレスががん病態に及ぼす影響を新しい視点から紐解いたものであり、将来的に炎症性がんの診断・治療に対して有益な情報を与える可能性が高い。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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Biological & Pharmaceutical Bulletin
巻: 40 号: 9 ページ: 1595-1598
10.1248/bpb.b17-00359
130006038778