研究実績の概要 |
温度は生物の生存と繁殖に直接影響を与える重要な環境情報である。本研究では、線虫C. elegansの低温適応現象をモデルとして、動物の温度適応メカニズムの解明を目指すものである。これまでの研究で、頭部の神経が温度情報を受容し、インスリンを分泌し、腸や神経系が受け取ることで低温適応が制御されることが明らかとされていた(Ohta, Ujisawa, Sonoda(本申請者), Kuhara, Nature commun, 2014)。その後の研究により、新たに精子が低温適応に関与することが明らかになっていた。平成28年度は、精子と低温適応の関係についてさらなる解析と、組織間における低温適応の制御メカニズムについて解析を行った。精子がどのようにして低温適応に影響を与えるかについて遺伝学的に解析した結果、精子の運動に重要な仮足の細胞骨格因子であるMajor Sperm Protein (MSP)が低温適応に関与していることが示唆された。さらに、遺伝学的解析やカルシウムイメージングによる生理学的解析の結果、予想外なことに精子から神経へのフィードバックが明らかとなった。精子は神経とは物理的な距離が存在することなどから、分泌性情報伝達因子であるステロイドホルモン受容体NHRに着目し、変異体やRNAiノックダウン個体の低温適応を解析した。その結果、腸で発現するNHRが低温適応に関与することが明らかとなった。これらの研究について本申請者を筆頭著者として論文を投稿し、2016年6月にCell reports誌上にて掲載された(Sonoda(本申請者) et al., Cell reports, 2016)。また、日本遺伝学会第88回大会や平成28年度分子生物学会年会でも発表を行い、分子生物学会では優秀ポスター賞を受賞するなど高い評価を得るに至った。
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