本研究では、直示動詞と視点取得の「視点」に関する類似性に着目し、自閉スペクトラム症児における直示動詞の理解を促す指導方法を明らかにすることを目的とした。空間的視点取得に関する研究から得られた知見を、直示動詞の指導法への適用することを試みた。なお、直示動詞は「わたす/もらう」「行く/来る」といった動詞のことを指す。また、視点取得は自分の視点を離れ、自分とは異なる視点に立つ他者がどのようなものを見ているかを推測する能力と定義される。 2018年度は、自閉スペクトラム症児において、自分とは異なる視点からのみえの観察が機能する条件を検証した。特に、ウェアラブル型アイトラッカーを用いて課題遂行中の眼球運動を分析した。その結果、提示刺激間を交互に見るといったように、刺激間の相互的注視行動の重要性が明らかになった。それを踏まえ、直示動詞の指導法の検討に関して、「太郎が花子にぬいぐるみを渡す」「花子が太郎にぬいぐるみを渡す」等の場面を動画で提示し、据え置き型のアイトラッカーを用いてそのときの眼球運動を計測した。そして、前者では太郎とその動作、後者では花子とその動作を相互的に注視させた。その結果、「○○ (参加児の名前) が 先生から ぬいぐるみを もらう」といった文を提示したときに、文の主客に応じて適切に動作する行動が促進された。以上のことから、視点取得研究における知見を直示動詞の指導に応用することの効果が示唆された。
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