研究課題
特別研究員奨励費
当該年度における成果として、本研究課題に関連する単著(『日本の精神科入院の歴史構造-社会防衛・治療・社会福祉』東京大学出版会、2019.1)の刊行に至った。当該研究は、現在なお大規模病床数、長期在院という解消すべき喫緊の政策的課題を抱えている日本の精神科入院の構造がいかにして形成されるに至ったについて、行政文書や精神科診療録、疫学調査の個票などの一次資料を使用して、患者や家族の実態を検証しながら歴史学的、医療社会学的、政策史的に論じたものである。本研究においては、「精神病床入院の3類型」という独自の分析枠組を導入した。これは、精神科入院には社会防衛、治療、社会福祉という3つの異なる機能が存在し、かつそれがやはり3つの制度的な医療費支払区分をインデックスにすることで一定度定量的に把握可能である、という観点から採用されたものである。これにより、20世紀の約100年間という長期にわたる精神病床数の推移を3つの機能に対応させながら、その意味を考察することが可能になった。これらを踏まえた分析の結果、戦前期における精神科入院は、医療費支払区分としては特別法-社会防衛型の入院が中核になっていたことが分かった。また、戦後の大規模病床、長期在院の構造が生じた1950年代から80年頃にかけての入院は、医療費支払としては生活保護法という公的扶助による社会福祉型の機能を持った入院に牽引されてきたことが判明した。また、この社会福祉型の入院は、精神衛生法に規定されていた家族同意による非自発的入院形式である「同意入院(現行の医療保護入院)」が大多数を占めていたことが統計上より明らかであった。すなわち、大規模病床数、長期在院傾向という戦後日本における精神科入院の特徴は、これまで先行研究で重視されてきた社会防衛型の入院ではなく、家族に主導された社会福祉型の入院形態を中心に構築されてきたことが明らかになった。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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