研究実績の概要 |
本研究では、非偏光の吸光度が外部磁場の方向に依存して変化する磁気キラル二色性(MChD)を強く発現するキラル希土類(Ln)クラスターの創成を目的としている。この目的を達成するためにはキラル希土類錯体の自然光学活性が増大するメカニズムを明確にすることが重要となる。そこで、当該年度は電子状態の解析を容易にするため単核のキラルユウロピウム(Eu)錯体を合成し、電子状態の観点から自然光学活性増大メカニズムを評価した。 カンファー誘導体を配位子としたキラルEu錯体において、発光に関する大きな自然光学活性(円偏光発光:CPL)が報告されている(J. L. Lunkley et al., Inorg. Chem., 2011)。この原因を検討するために、3-(+)-トリフルオロアセチルカンファー (+tfc)配位子とトリフェニルホスフィンオキシド(tppo)配位子から構成されるEu錯体を合成し、溶液中における外部環境に依存したCPLの評価を行った。アセトン溶媒中におけるEu錯体の構造はEu錯体の濃度およびアキラルなtppoの添加量によって変化することをNMRおよび発光特性より確認した。その溶液中では、+tfcを有するEu錯体にtppoが配位した構造とアセトン分子が配位した構造の平衡状態を形成することが示唆された。自然光学活性として、Euイオンの4f-4f遷移におけるCPLが観測され、その符号はtppoおよびEu錯体濃度に依存して反転した。CPLの非対称性因子はその外場に依存して100倍程度異なり、+tfcが配位したEu錯体のCPL特性はアキラル分子に依存して大きく変化することが明らかとなった。磁気双極子許容な4f-4f遷移におけるCPLはEuイオンの異なる準位間のミキシングに伴い値が増大することが示唆された。
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