本研究の目的は蒸発・凝縮を伴う気液二相流のマルチスケール解析手法を構築することである。第一段階として,気液界面における気体論境界条件(ボルツマン方程式のための境界条件)を構築し,気液界面近傍のミクロ領域と遷移領域を接続する。更に,構築した気体論境界条件を用いたボルツマン方程式の解析により流体力学的境界条件を導出し,ミクロ領域とマクロ領域を接続することが本研究の最終目標である。 このための方法として,温度差のある二液膜間における正味の蒸発・凝縮(気液界面を通過する法線方向の質量流束がある状態)について平均場運動論に基づく分子計算を実施した。この計算では,二つの液膜の温度差を変えることで多様な正味の蒸発・凝縮状態を実現することが可能である。 ここまでの研究により,液体温度が時間的に変化しない定常蒸発・凝縮問題を平均場運動論に基づく気液二相系の分子計算を実施することで,蒸発係数・凝縮係数と呼ばれる二つの未知係数を算出し,剛体球分子についての気体論境界条件を構築した。当該年度は,第一に,構築した気体論境界条件を液体温度が時間的に変化するような非定常蒸発・凝縮問題に適用し,定常問題から導出した気体論境界条件の非定常問題への適用可能性を調査した。次に,ここまでの研究により構築した気体論境界条件を用いたボルツマン方程式の解析により,流体力学的境界条件を提案したことが当該年度の主要な成果である。 これにより,従来は一意的に決定することが困難であった蒸発係数・凝縮係数を,非定常蒸発・凝縮下においても決定することが可能となった。非定常正味の蒸発・凝縮下における蒸発係数・凝縮係数を議論し,更にボルツマン方程式の解析結果と分子計算の結果を比較することでこれらの値を検証したのは本研究が初めてである。
|