研究実績の概要 |
平均曲率流は部分多様体の体積汎関数に関する勾配流であり, 極小部分多様体はその臨界点となっている. したがって部分多様体を平均曲率流に沿って変形していけば, やがて極小部分多様体に収束することが予想される. しかしこのことは一般には成り立たず, 有限時間で特異点が発生することがある. 平均曲率流の解が時間大域的に存在し, 極小部分多様体に収束するためには初期部分多様体, および外側の空間が「よい条件」を満たしていなくてはならないが, どのような条件が適切であるかは明確になっていない. 特にラグランジュ平均曲率流など, 余次元の高い平均曲率流の場合には, 解析の複雑さが増すため収束性を含めた多くのことが解明されていないままであった. このような背景のもと梶ヶ谷徹氏と共同で, ある条件を満たすケーラー多様体内のラグランジュ部分多様体に関して, 重み付きの極小性, ハミルトン安定性および平均曲率流を考察し, 以下の結果を得た. (1)重み付きのハミルトン安定性の同値条件として, 重み付きラプラス作用素の第1固有値に関する条件を導出した. (2)その同値条件を利用し, 重み付き状況下でハミルトン安定性をもつ極小ラグランジュ部分多様体の具体例を構成した. (3)重み付き状況下におけるハミルトン安定な極小ラグランジュ部分多様体に「十分近い」ラグランジュ部分多様体が平均曲率流のもとで時間大域解を持ち, 重み付きの極小ラグランジュ部分多様体に滑らかに収束することを示した. これらの結果は全てケーラー・アインシュタイン多様体内のラグランジュ部分多様体について知られていた結果の拡張となっているが, 特にファノ多様体などにも適用可能なものとなっている.
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