研究課題
特別研究員奨励費
鉄系超伝導体FeSeが、他の鉄系とは異なる温度―圧力相図を示すことで注目を集めている。超伝導転移温度は圧力を印加すると非単調に増大し続け、高圧側の反強磁性量子臨界点近傍で常圧の4倍近い転移温度を示す。本研究では第一原理計算に基づくFeSeのd-p模型に対して、動的平均場理論や乱雑位相近似といった手法を相補的に適用し、磁気・軌道揺らぎと電子状態、超伝導について調べた。まず、常圧のd-p模型に動的平均場理論を適用することで1粒子スペクトルを導出した。d軌道のクーロン相互作用に軌道依存性があるためにxy軌道のスペクトルに第一原理計算との差が生じ、結果として実験の電子状態が説明されることを明らかにした。次に、同様のd-p模型に乱雑位相近似を適用し、スピン・軌道揺らぎと超伝導の圧力依存性について調べた。その際、動的平均場理論で期待される遷移積分の補正を加えることで実験との不整合を解消することに成功した。圧力依存性の結果として、同一サイトのクーロン斥力に由来する反強磁性秩序は一重ドーム構造で安定化するが、サイト間(d-p間)クーロン斥力に由来する軌道秩序は単調に抑制されることを示した。超伝導は二重ドーム構造を示し、高圧側のほうが転移温度が高い。また、これらはnodal-s±波超伝導であることも明らかにした。本研究で得られた結果は実験の相図を良く説明するとともに、比熱測定、STMから予言されるギャップ構造とも良い一致を示している。鉄系超伝導体FeSeは複雑な電子状態を持ち、かつクーロン相互作用も大きいため、これまで現実的な電子状態と強相関・強結合効果の両方を考慮して超伝導まで議論した研究は数少なかったが、本研究における手法は第一原理計算に基づく強相関・強結合効果を考慮した量子多体計算を可能にしており、鉄系超伝導体の超伝導機構を明らかにする上で重要な計算手法であると期待される。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Journal of Physical Society of Japan
巻: 85 号: 11 ページ: 114709-114709
10.7566/jpsj.85.114709