本研究の目的は労働者の国際的な移動と経済成長との関係について理論モデルを用いて分析することである。具体的には先進国が途上国からの労働者受け入れを促進するような移民政策を行った際に先進国・途上国の長期的な経済成長や両国に住む人々の経済厚生がどのような影響を受けるのか理論的な答えを得ることである。 平成28年度は分析の第一段階として途上国出身の個人が外生的な移民成功確率に従い先進国に移住すること、先進国と途上国生まれの個人の間で出生率が異なることを仮定した上で簡単な内生的経済成長の理論モデルを構築した。その後、移民成功確率の変化が先進国の人口成長率、経済成長率、そして先進国に住む人々の経済厚生に与える影響を分析し既存文献との比較を行った。 平成29年度は前年度構築した理論モデルに労働者の構成と労働生産性との関係性を加えた。先行研究において異なる文化的背景をもった労働者どうしの意思疎通は、その意思疎通の費用が十分に低い場合労働生産性の上昇に貢献することが示されている。先進国における人的資本蓄積に先進国生まれの労働者、途上国から先進国に移住してきた移民労働者の比率が影響するとき、先進国の長期の経済成長率はこの外部性と人口成長率に依存することが分かった。移民労働者が先進国の人的資本蓄積に与える効果が正かつ移民の受入れに際し先進国に住む家計が負担する費用を十分に上回るとき、移民労働者の更なる受け入れは長期の経済成長を促進する。一方で、移民労働者が先進国の人的資本蓄積にもたらす効果が小さいとき移民労働者の受け入れは経済成長を阻害する。
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