研究実績の概要 |
1: 芳香族性は炭化水素誘導体などの光学特性の制御と理解のために長く重要視されてきたが、燐光発光を志向した遷移金属錯体に関しては詳細な理解がなされていない。前年度までに当該研究者は、trans-bis(β-iminoaryloxy)Pt(II)錯体を用いて、はじめて燐光発光特性と芳香族性の相関を実験的・理論的に明らかとした。本年度はこれらの研究を欧州の化学系学術誌へフル論文として (Inoue et al., Chem. Eur. J. 2019, 25, 3650-3661) 発表できた。
2: アルキル鎖で渡環した新規白金錯体を合成し alkyl CH-Pt 相互作用について調査した。単結晶 X 線構造解析と、DFT 計算、NBO 計算による精査の結果、CH-Pt 間に水素結合性の相互作用が存在していることが明らかとなった。本研究によってalkyl 鎖のCH 活性化の位置の制御方法のためのコンセプトの提示がなされた。これらの研究を欧州の化学系学術誌へフル論文として (Eur. J. Inorg. Chem. 2018, 4771-4778) 発表できた。
3: 本年度、当該申請者は渡環型Pt(II)錯体 が示すAIE メカニズムのさらなる解明のため、結晶中における金属-金属相互作用が発光とその失活過程にどのように影響を及ぼすのかを、ONIOM 計算で取り入れる相互作用の種類を制御することで検討した。その結果、1.本系の発光は Pt-Pt間の距離が長い3MLCT 状態と、Pt-Pt間の距離が短い3MMLCT 状態の二状態から起こる2. 発光の熱失活は、モノマーのみが励起状態の 3MLCT 状態から配位平面が歪むことで起こる3. ダイマーが励起状態となった3MMLCT 状態由来の失活経路は存在せず、モノマーとして失活するということが明らかとなった。
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