研究課題/領域番号 |
16J02800
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
研究分野 |
生物系薬学
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上水 明治 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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研究課題ステータス |
留保 (2017年度)
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配分額 *注記 |
1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
2017年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
2016年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
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キーワード | リゾリン脂質 / GPCR / マスト細胞 / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
本研究は、リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジルセリン(LysoPS)の生体内機能の解析を目的としている。これまでに、解析ツールとして、LysoPS受容体サブタイプ選択的作動薬の開発に成功している。28年度は、LysoPS受容体の一種であるLPS1の選択的且つ強力な作動薬を使用し、次に示す研究成果を挙げた。 1.マスト細胞におけるLPS1の機能の探索 未成熟マスト細胞は生体内において、骨髄を出た後に血中を循環し、末梢組織へ移行した後に成熟する。末梢組織への移行の際、未成熟マスト細胞は末梢組織付近の血管壁に接着する。ところで、当研究室でのこれまでの解析により、LPS1がマウス骨髄由来未成熟マスト細胞(BMMC)に高発現していることを見出している。LPS1はGαiに共役するが、Gαiに共役する幾つかの受容体が、細胞の接着及び遊走を制御することも知られている。野性型マウス由来のBMMCをLPS1作動薬で刺激すると、BMMCの細胞外マトリックスへの接着能が増強されることが分かった。また、この効果は、LPS1ノックアウトマウス由来のBMMCでは観察されなかった。本結果は、未成熟状態マスト細胞の末梢組織への移行に、LPS1が関与する可能性を示していると考えられる。 2.マウス個体レベルでのLPS1の新規機能の探索 マウスの腹腔で炎症を誘発すると、腹腔洗浄液中で一部の免疫細胞の数が増加することが知られている。また、これまでの当研究室での解析により、マウス腹膜炎モデルで、腹腔洗浄液中のLysoPS量が増加することが見出されている。LPS1作動薬を野性型マウス腹腔内に投与すると、腹腔洗浄液中の単球及び好中球の数が上昇し、マクロファージの数が減少した。このことは、炎症時の腹腔への単球及び好中球の遊走に、LysoPS - LPS1シグナルが関与することを示す重要な知見であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
28年度では、マスト細胞におけるLPS1の機能探索は、マウス個体レベルでの解析まで行う予定であった。具体的には、マウスにLPS1作動薬を投与し、投与箇所における未成熟マスト細胞の数を限界希釈法により計測する予定であった。しかし、年度内に当該実験系を導入することができず、個体レベルでの解析を行えなかった。一方で、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)を用いた細胞レベルの実験で、LPS1の新規機能を見出したという点を考慮すると、進捗が僅かながらにもあったと言える。 LPS1作動薬を用いたマウス個体レベルでのLPS1の機能探索の進捗は芳しくなかった。28年度は、野性型マウスに様々な経路で作動薬を投与し、投与箇所における細胞の数を計測する予定であったが、腹腔内投与のみ行った。一方で、野性型マウスへLPS1作動薬を腹腔内投与した結果、腹腔洗浄液中で数種類の細胞の数が増減することを見出した。この点では、進捗が僅かにあったと言える。しかし、LPS1ノックアウトマウスで作動薬の効果が消失するかを検証しなかった点も考慮すると、全体として進捗は非常に遅れていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
マスト細胞におけるLPS1の機能の探索については、マウス個体レベルでの解析に早急に取りかかる必要がある。具体的には、未成熟状態マスト細胞の数を計測するための限界希釈法、ovalbumin誘導性喘息モデルの導入を行う必要がある。これらの実験手法を導入することで、LPS1作動薬の投与箇所での未成熟状態マスト細胞の数の計測及び、病態モデルにおける未成熟状態マスト細胞の炎症箇所への集積にLPS1が関与しているかを検証することが可能となる。また、28年度に、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)の細胞外マトリックスへの接着能が、LPS1作動薬刺激時に亢進することを見出した。細胞の接着能と遊走能は互いに密接な関係にあるため、LPS1作動薬がBMMCの遊走能を制御する可能性を検証する必要がある。 LPS1作動薬を用いた、マウス個体レベルでのLPS1の機能探索については、早急に次のことに取りかかる必要がある。すなわち、28年度の研究成果である、作動薬を野性型マウスに腹腔内投与した際に観察される効果が、LPS1ノックアウトマウスで消失するかを検証する必要がある。LPS1ノックアウトマウスで作動薬の効果が消失するならば、腹膜炎モデル誘導時の腹腔洗浄液中の細胞数が、野性型及びLPS1ノックアウトマウスで異なるかを検証する必要がある。これは、腹膜炎モデルにおいて、腹腔洗浄液中のリゾホスファチジルセリン(LysoPS)量及び単球、好中球の数が増加すること、及び28年度に得られた成果である、LPS1作動薬投与時に腹腔洗浄液中の単球、好中球の数が増加するという結果を根拠としている。また、比較的実験が容易であると予想されることから、LPS1が単球の接着能及び遊走能を制御する可能性を細胞レベルで検証する必要もあると考えている。 なお、29年度は諸事情のため留保するが、留保解除後には予定通り研究を進める。
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