研究課題
特別研究員奨励費
本研究では、レアメタル・レアアース・貴金属フリーな次世代磁性材料として、フェリ磁性金属である窒化マンガンMn4Nに注目し、その細線デバイスにおける磁気特性の評価を行った。STO基板上に成長したMn4N薄膜を電子線リソグラフィとアルゴンイオンミリングを用いて幅1μmの細線に加工した。作製したデバイスにはパルス電流を注入し、その前後でのKerr効果顕微鏡像の差分から磁壁の移動を観察した。その結果、長さ1 nsのパルスに対する磁壁移動のしきい値電流は約3×10^11 A/m^2であり、平均磁壁速度は最大で1.3×10^12 A/m^2の電流で900 m/s以上まで及んだ。特に大電流領域における磁壁速度の線形的な振る舞いは後述する1次元モデルのそれと一致し、傾きから磁壁の移動度はη = Δv/Δj = 7.1×10^-10 m^3/Cと求まった。この値は、人工反強磁性積層膜における電流駆動での磁壁の最高速度である、3×10^12 A/m^2 での750 m/sと比べても低電流密度ながら高速であり、積層構造や磁場のアシストを含まない純粋なSTTのみで磁壁移動した例としては最速である。また、使用したMn4N薄膜の物性値を磁壁の移動度の理論式に代入したところ、電気伝導度のスピン分極率は約80 %と推定され、本材料の持つ磁気抵抗デバイスへの応用も期待できる結果となった。本研究では、現在の電流駆動磁壁移動の研究で主流となっているTbやGdといったレアアース、Ptといった貴金属元素を用いることなく、またスピン軌道トルクを用いることなく900 m/sを超える高速での磁壁駆動を、1.3×10^12 A/m2という比較的小さい電流密度で実現した。また、磁壁速度の傾向からスピン分極率も80 %と期待され、Mn4Nが持つスピントロニクス材料としてのポテンシャルを示すことができた。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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