本研究課題における仮説は「共生細菌の間接遺伝効果が、寄主植物の表現形質の変異を介して、関連する昆虫群集構造を変えている」である。それに対し、2018年度には、ホスト樹木個体内における共生細菌の遺伝的多様性に注目し、以下の疑問の検証を行った: (1) ホスト個体内の共生細菌群集がどのように形成されているか、 (2) ホスト個体内における共生細菌の多様性によって植食性昆虫の成長が異なるか。(1)の疑問を検証するため、ケヤマハンノキと窒素固定細菌フランキアの共生系を対象として、ホスト樹木の根圏土壌における共生細菌集団のメタゲノム解析を行った。また、疑問(2)の検証のため、植食昆虫2種を使った摂食実験を行った。 その結果、樹木の遺伝的変異と共生細菌の遺伝的組成の違いは、それぞれ、捕食性昆虫と植食性昆虫という異なる機能群の昆虫に対して影響を及ぼし得ることが示唆された。加えて、ケヤマハンノキ個体がもつ共生細菌の遺伝的な組成は、寄主植物の共生最適化機構によって形成されていることが、フランキアDNAのメタゲノム解析の結果から示唆された。以上より、ケヤマハンノキ個体間での共生細菌の遺伝的組成の違いは、樹木個体間での最適化機構の変異によって生み出されていると考えられる。また、この最適化機構に関わる機能的形質の違いは、土壌中の細菌群集を含む局所的な選択圧のパターンによって選択を受けている機能遺伝子の変異によって、生み出されている可能性が考えられる。これにより、ケヤマハンノキに対する選択圧を及ぼしている主要な植食者の成長と共生細菌組成との間の関連性として表れていたのだろう。以上から、野外森林生態系における、共生細菌群集を含む選択圧による樹木遺伝変異は植食者群集へ、中立的な遺伝変異は揮発性物質などの形質変異を通して捕食者群集へ、それぞれ異なるプロセスを経て生物群集の形成に貢献しているだろう。
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