本研究では、新規高機能性β型Mg合金の創製を目的とし、Mg-Sc合金における形状記憶特性の詳細な調査による最適な合金組成の探索やその機構解明を目的とし、以下の知見を得た。 1. Sc濃度とマルテンサイト変態温度: 様々なSc濃度のMg-Sc合金に対し、液体窒素内で変形を加えた後、温度を緩やかに上昇させることで形状回復開始温度を調査した。その結果から変態温度を見積もると、Sc量を1 at.%低下させると変態温度は100 °C以上上昇すると考えられる。以上より、Sc量の低下とともに変態温度は上昇し、強い組成依存性を有することが明らかとなった。 2. 変態メカニズムの解明: 温度を変化させながらXRD測定を行った結果、降温時にマルテンサイト相と考えられる新たなピークが出現し、昇温によりそのピークは消滅した。このことから、Mg-Sc合金において熱的なマルテンサイト変態が生じることが確認された。その際得られたピーク位置はTi合金におけるマルテンサイト相のものと酷似していた。従って、Mg-Sc合金におけるマルテンサイト相の結晶構造はTi合金と同様にorthorhombic(直方晶)であると考えられる。また、様々な温度下における負荷-除荷引張サイクル試験の結果から得られた変態誘起応力と温度の関係より見積もられる変態エントロピーの値もTi合金のものと近い値であったことからも、マルテンサイト相がTi合金と同様の結晶構造であると推測できる。更に、結晶構造をorthorhombicとし、その格子定数をXRDパターンから算出した。その結果を基に、母相(bcc相)とマルテンサイト相の格子対応関係から各方向の変態ひずみを概算したところ、理論上ではbccの011方向において最大超弾性ひずみが得られることが分かった。この結果を基に初期組織の配向制御を行うことで、更なる形状記憶特性の向上が望める。
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