今年度において研究代表者は、世俗化とイスラーム復興が同時に進行するイラン社会において人々の信仰や宗教観が形成されていくメカニズムを解明するとともに世俗化論やイスラーム復興に関する議論の再考をすることで信仰というものを問いなおすという課題の下、(1)昨年度の現地調査のデータをもとに研究発表、(2)テヘランにおける儀礼の現地調査、(3)水たばこに着目した現地調査を行った。 (1)昨年度収集したデータをもとにヤゲロー大学で開かれたIUAESの中東部会の研究大会で発表を行った。本発表ではテヘランの下町で行われるシーア派の儀礼の事例を取り上げ、儀礼を取り巻く地域共同体の在り方と身体所作について議論した。これらの儀礼は本来の追悼という意味を越えた非日常の出来事であり、儀礼に従事することが、宗教的/世俗的という研究上の区分を横断しうるということを指摘した。 (2)平成29年8月29日~10月21日にかけて、テヘラン市内で、モハッラム月に行われる儀礼の参与観察および参加者へのインタビュー調査を行った。とりわけ儀礼が儀礼の主目的以外にいかなる社会的機能を担っているかということに着目した。イラン社会における宗教的規範による制限との関係から、宗教儀礼が出会いの場としての機能を持つことを明らかにした。 (3)テヘランの下町では、水タバコを吸うカフヴェハーネという店が地域の男性の社交場としての役割を担っている。そして店内には宗教的な装飾が施されていることが多い。本調査ではその使用実態を調査した。また近年イランで推し進められている禁煙運動やイスラームにおけるタバコの法的地位について調査を行った。近年のタバコの規制をテヘラン下町における事例を検討することで、水タバコというモノが行政による規制や宗教的規範と人々の嗜好との緊張関係におかれ、さらに規制の論理が宗教/世俗の区分を超えていることを明らかにした。
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