本研究課題の目的は高親和性を有する新規ヘム結合タンパク質の計算機による設計と実験的検証であった。ヘムは微生物や植物からヒトに至るまで様々な生物が生命の維持活動に利用している、汎用性の高い化学物質であり、一分子のヘムの中に鉄を一原子持つ。また、タンパク質の人工的な創出は、生物物理学だけでなく情報学・統計学も用いて積極的にその理論化を推し進めている分野であり、この研究分野の発展は薬剤としての応用や人工酵素の創出につながる。したがって新規ヘム結合タンパク質の創出は生命活動を根底から支える分子の人工的創出であると言える。 その第1段階として、「天然に存在する非ヘム結合性タンパク質を主鎖構造から再設計し、ヘム分子と結合できるよう改変する」ことを初年度の目的とした。まず天然に存在する非ヘム結合性タンパク質として、内部に大きな空隙を持つタンパク質PA3332 (PDB ID: 1z1s)を選択し、ヘムが結合できるだけの十分なスペースを用意するためにC末端のαヘリックスと残基No.34-43に存在するフレキシブルなループ構造をそれぞれβシート構造および最小限のループ構造に改変した。続いてこの主鎖構造をもとに、ヘムとの結合に適するようアミノ酸側鎖の配置を最適化した。これらの条件をもとに、タンパク質モデリングソフトウェアRosetta program suiteを用いて、アミノ酸の側鎖の改変およびエネルギーに基づく構造最適化を計算機上で行い、改変体をデザインした。 最後にデザインしたアミノ酸配列をコードするプラスミドを発注し大腸菌発現系にて発現・精製を試みた。精製タンパク質はヘム結合タンパク質に特有な赤茶色を呈していたことからヘム結合能を一部有していると考えられた。今後さらなる検証と親和性の向上、そしてテンプレート無しでのヘム結合タンパク質の創出に向けた取り組みを進めていくことにしている。
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