研究実績の概要 |
本研究は、精神的ストレスに着目した新たな創部痛発生機序を検証し創部痛バイオマーカー候補を同定するこを目的とした。 まずはじめに、実験に用いる全層欠損創モデルラットの創部機械的痛覚閾値を測定する方法を確立するため、既存法であるvon Frey test(VFT)の適応を検討した。結果VFTは、1)創部組織の炎症の程度の違いによる機械的痛覚閾値の変化、2)創作製後3、5日目におけるモルヒネ塩酸塩とインドメタシンそれぞれによる鎮痛効果、3)創作製後5日目におけるλ-カラギーナンにる機械的痛覚閾値の低下を検出することが出来た。これらの結果より、VFTは全層欠損創モデルラットの機械的痛覚閾値を測定しうることが明らかとなった。 次に、上記方法を用いて、ストレスによって分泌が促進される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の創部と創部機械的痛覚閾値への影響を観察した。ACTHを創部に直接投与すると機械的痛覚過敏を引き起こすことが初めて明らかとなった。この現象は、当初想定した創部組織で局所的に産生されるコルチコステロンを介するものではなく、アラキドン酸の代謝物である5,6-epoxyeicosatrienoic acid(5,6-EET)によるtransient receptor potential vaniloid 4(TRPV4)の感作による現象である可能性がある。また、5,6-EETの産生にCytochcome P450 2B12が関わっていることが示唆された。本研究は、ストレスよって増悪する創部痛のメカニズムが創部局所に存在する可能性がを明らにした。また、5,6-EETが創部痛バイオマーカーの重要な候補であり、新たな治療ターゲットであることが示唆された。今後、5,6-EETの阻害実験ならびにTRPV4の電気生理学的解析による詳細なメカニズムの解明が期待される。
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