研究課題
特別研究員奨励費
哺乳類の心筋細胞は生後まもなく増殖能力を殆ど失うため、心筋梗塞や圧負荷などの傷害を受けた心臓の再生は極めて困難である。しかし一方で、急性心筋炎病態では一過性の心機能低下が生じるが、その後炎症の消退とともに自発的に回復することが臨床的に知られており、この機構の解明は新規心筋再生法の確立につながると期待される。マウス急性心筋炎モデルを用いたこれまでの検討により、心筋炎病態下では心筋細胞内で細胞増殖促進作用を持つ転写因子STAT3と転写補助因子YAPが活性化し、心筋細胞が高頻度で増殖することを見出していた。平成28年度は新たに、増殖する心筋細胞の由来、STAT3活性化による心筋細胞増殖促進効果、STAT3下流因子、および転写補助因子YAPの活性化法の検討を行った。増殖心筋細胞の由来として、幹細胞や前駆細胞などが新しく心筋細胞に分化して増殖するという場合と、既存の心筋細胞が分裂するという場合の二つの可能性が考えられたが、既存の心筋細胞を心筋炎誘導前にマーキングすることにより、増殖心筋細胞は既存心筋細胞由来であることを明らかにした。STAT3はIL-6ファミリーのサイトカインによって活性化される。同ファミリーの分子であるIL-11を心筋炎を発症したマウスに投与し、STAT3のさらなる活性化を誘導した結果、心筋細胞の増殖が促進されることが示された。STAT3遺伝子を欠損した心筋細胞の遺伝子発現を網羅的にすることにより、STAT3遺伝子を欠損した心筋細胞では細胞増殖促進作用を持つmetallothioneinやclusterinの発現が低下していることを見出した。YAPはHippo経路によって負に制御される分子である。Hippo経路の分子の発現を合成核酸によって抑制したところ、YAPが活性化さることを確認した。STAT3・YAPの同時活性化による心筋再生法の確立が期待される。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Scientific Reports
巻: 印刷中
The American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology
巻: 311 号: 2 ページ: 476-486
10.1152/ajpheart.00180.2016