研究実績の概要 |
本研究では,n型特性の発現を指向した,低いLUMO準位を持つ化合物”ヘキサへテラ[6]サーキュレンの創成を目指し,2つのコンセプトを用いて研究を行った.1つめのコンセプトは,「湾曲π共役系+カルコゲン原子」で,湾曲π共役系骨格に典型元素を組み込み,新規な軌道相互作用を誘起することで,LUMO準位の低下を生み出すことを目指し,ヘキサカルコゲナ[6]サーキュレンを目的化合物として設定した.ベンゾトリチオフェンに過剰量のn-BuLiを作用させ,次いで種々のカルコゲン試薬を作用させたところ,カルコゲンの導入が示唆されたが,目的物の単離には至らなかった.2つ目のコンセプトは,「σ*-π*共役+環状連結」で,シロールの環外炭素-ケイ素σ*(C-Si) 軌道とブタジエン部位のπ*軌道との相互作用 (σ*-π*共役) を6つ環状に連結することで,LUMO準位の低下を生み出すことを目指し,ヘキサシラ[6]サーキュレンを目的化合物として設定した.トリシラトリンダンをリチオ化した後,クロロジメチルシランを作用させたところ,ジメチルシリル基が導入した化合物の生成が示唆されたが,生成物の単離には至らなかった.続いて,典型元素を化合物の骨格に組み込むと化合物のHOMO-LUMO準位を巧みに変化させられるという発想を応用して,ヘキサキス(フェニルセラニル)ベンゼンの電子準位の制御を行うことにした.ヘキサキス(フェニルセラニル)ベンゼンに2当量のn-BuLiを作用させ,次いで種々の典型元素試薬を作用させたところ1,4-位に典型元素が置換した多置換セラニルベンゼンを合成することに成功した.この多置換ベンゼンは置換した典型元素により電子準位が変化することが明らかになった.すなわち,典型元素の軌道相互作用により化合物の電子準位の制御ができるということを達成することができた.
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