今年度は、時間分解テラヘルツ反射分光を用いたGaAs太陽電池デバイス中の光励起キャリアの高感度検出技術を開発し、その成果を国際会議および学術雑誌において発表した。一般に、太陽電池は10 17-10 18 cm -3程度のキャリアが化学ドープされた半導体の積層構造からなる。低周波数領域は自由キャリアのプラズマ反射により不透明になってしまうため、反射配置の広帯域テラヘルツ分光の応用に取り組んだ。まず、分子線ビームエピタキシー法により厚みおよびキャリアの化学ドープ量を精密に制御して作成されたp型およびn型のGaAs薄膜に対して系統的に反射測定を行った。誘電体多層膜モデルを用いた反射スペクトルの数値計算手法を確立し、実験で得られた反射スペクトルと比較することで薄膜中のキャリア密度、散乱時間を定量的に決定できることを確かめた。p-i-n構造を含むGaAs太陽電池デバイスにおいても数値計算による反射スペクトルが再現可能であることを実証し、テラヘルツ反射分光によるキャリア数の定量評価の信頼性を確立した。さらに、太陽電池デバイスにおいては試料表面を反射したテラヘルツ波とデバイス内部に侵入し再放射されたテラヘルツ波とが干渉することで、p-i-n積層構造に由来した干渉縞がテラヘルツ周波数帯に現れることを明らかにした。試料内部に侵入したテラヘルツ波の空間分布を計算すると、デバイス表面から活性領域近傍に電場分布が集中し、デバイス中に光励起されたキャリアの空間分布に対して敏感な応答をすることが予想された。太陽電池を光励起した際の干渉縞の中心周波数シフトを系統的に調べることで、デバイスに化学ドープされたキャリア密度よりも1桁小さな光励起キャリアであっても絶対値測定ができることを明らかにした。以上から、テラヘルツ分光が太陽電池デバイスの活性領域近傍の光励起キャリアの高感度検出に応用できることを示した。
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