研究実績の概要 |
本研究の目的は,申請者がこれまでに取り組んできた高強度レーザーシステムの開発を推し進め,アト秒の軟X線パルスおよび位相安定な高強度中赤外パルスを発生できるレーザーシステムを開発し,未踏の光電場強度および未踏の時間領域における光・物質相互作用現象の探索的研究を行うことである. 初年度である平成28年度では,まず位相安定な高強度中赤外パルス光の発生を目指した.中赤外パルス光の発生手法として,分散媒質を用いた時間軸上の周波数構造制御,縮退光パラメトリック増幅器による超広帯域光増幅,パルス内差周波発生とを組み合わせた新手法を提案,実証した.本手法により,CEP安定な高強度中赤外パルス(中心波長8 μm, パルスエネルギー5 μJ, 時間幅70 fs)の発生に成功した.得られた中赤外パルスを半径32 μmに集光することで,56 MV/cmの電場が得られた.さらに,中赤外パルス光と同期した可視6.5 fsパルス光を用いた電気光学サンプリング法により,中赤外電場波形の実時間測定に成功した. 次に,高強度中赤外パルス光を半導体結晶へと集光し,固体高次高調波の発生実験を行った.発生した高次高調波を中赤外光の偏向方向に平行な成分と垂直な成分とに分けて観測することにより,固体高次高調波スペクトルが結晶の多次元的な電子構造(バンド構造)を反映することを明らかにした. 以上,平成28年度の研究では,新手法による高強度中赤外パルス光源の開発に成功したことに加えて、開発した光源を用いた分光測定により高強度光電場と固体電子との相互作用に関する新たな知見を多数得ることにも成功した.
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