性別を持つ生物において、息子と娘の適応度が異なる場合,親個体は一方の性別を多く産み,性比を偏らせることが適応的である.仔の性比を偏らせる要因の1つとして性特異的死亡 (sex-specific mortality: SSM)が知られている.SSMは様々な動物において報告されているにもかかわらず、SSMと繁殖条件の関係、SSMの至近要因について,これまで研究されてこなかった.そこで報告者は、以下の3項目について研究を行った。 i) SSMと仔の性比について論文投稿:論文執筆を行い、受理された。この論文では野外においてスズメを対象に、胚発生段階におけるSSMについて性比の縦断的変化を追跡したことを報告した。 ii) SSMとストレスレベルの関係についての実験的検証:報告者自身の研究から、SSMは繁殖密度が高い場所や、巣場所争いが激しい場所においてより頻繁に観察された。また、先行研究から母親のコルチコステロン(ストレスホルモン)レベルを実験的に上昇させた結果、雄胚の死亡率が増加したことが報告されている。そこで報告者はスズメにおける胚発生段階の雄胚の死亡が母親のストレスレベルが高い場合に起こると予測し、実験を行った。その結果、SSMの至近要因はストレスレベルであることが示唆された。 iii) 未孵化卵の生態学的意義:胚段階のSSMが起きるため、巣内には未孵化卵が残ることとなる。未孵化卵を作るためには母親のエネルギー的投資が必要であるため、一見非適応的に見える。しかし、未孵化卵の存在が非適応的であるかは検証されていなかった。そこで報告者は未孵化卵が巣内に残されることに意義があるかどうかを検証するため、人為的に未孵化卵の数を操作する実験を行った。その結果、未孵化卵がある巣のヒナは、未孵化卵がない巣のヒナと比べて、巣立ち時の体重が重く、免疫力が高いことが分かった。
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