研究実績の概要 |
我々の研究グループは,高Q値ナノ共振器を用いたシリコン(Si)ラマンレーザの研究を行っている.このレーザは,小型な共振器長(<10 um)で低閾値発振(<1 uW)を達成しており,電子技術と光技術が融合した高性能Siチップにおける小型光源などへの応用が期待されている.現状,このレーザの出力は数百ナノワット程度で飽和してしまうため,高出力化は特に重要である. 本研究では,このレーザの発振メカニズムを明らかにすることによって,出力の損失要因を特定し,高出力化・高性能化を目指す.前年度までに,ラマンレーザの時間領域測定を行い,2光子吸収と自由キャリア吸収による光損失に加えて,2光子吸収キャリアがもたらす屈折率変化による共振波長シフトも,レーザ出力低下の大きな要因であることを報告してきた.また,誘導ラマン散乱光励起(SRE)分光法と呼ばれる新しい利得スペクトル測定手法を用いて,Siラマンレーザの利得特性を明らかすることに成功した.この一つの測定法から,レーザ動作の励起波長の範囲,最大出力の励起条件,非線形光学損失を含むラマン利得などの様々なレーザ特性の詳細を明らかにすることが可能になった.これらの成果を,科学雑誌Physical Review Applied, Opticaにおいてそれぞれ発表した.以上の結果より高出力化に向けたデバイスデザインの指針が得られた. さらに,昨年度から引き続き,インコヒーレントでブロードなスペクトルを持つ光源を用いたラマンレーザ発振の研究を進めた.1 uW以下の超低閾値を持つナノ共振器レーザを作製し,励起効率を上げるために測定系を改善した結果,閾値の1/20の励起パワーに相当するラマン散乱スペクトルを観察することに成功した.
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