研究実績の概要 |
優れた光捕集能を有する5,15-ジアザポルフィリン誘導体(DAP)を、医療用増感剤として応用することを目的とし、本年度は、(i)近赤外部に強い吸収を持ち、親水性を示す誘導体の合成、(ii)得られた誘導体の構造-物性相関の解明、そして、(iii)細胞毒性の評価の三つの課題に取り組んだ。 まず、以前報告したDAPの直接アミノ化反応を利用し、ビス(4-エトキシカルボニル)フェニル基を四カ所に導入したDAP金属錯体1M (M = Pd, Cu)を合成した。続いて、アルカリ加水分解を行うことで、塩基性条件下で親水性を示す誘導体2Mの合成に成功した。 1Mは、近赤外部に強い吸収を示した。また、1Pdはトルエン中において99%の量子収率で一重項酸素を発生させること、1Cuは1Pdよりも量子収率が低くなること、および、2Mのミセル水溶液中における量子収率はトルエン中の1Mと比べて大きく低下することが分かった。過渡吸収測定によりその理由を調査した結果、1Pdと比較して1Cuは三重項寿命が大幅に短くなっていることが明らかとなった。これは銅(II)イオンの不対電子の影響によるものと考えられる。一方、1Pdと2Pdを比較すると2Pdでは酸素との反応速度が大きく低下していることがわかった。これは、2Pdはほぼミセル中に局在化しており、酸素との衝突が妨げられていることを示唆している。 なお、2Pdの量子収率は20%程度と低いものの、ゼロではないことから、実際に医療用増感剤としての応用が期待できる。そこで、2Mを取り込ませたHeLa細胞に対してレーザー照射を行い、細胞の生存比を調査したところ、2Pdにおいて顕著な細胞死が認められた。 今回の結果は、適切な置換基・中心金属を持つDAPが医療用色素として有望であることを示しており、今後、より優れた医療用色素を開発する際の有益な知見になると考えられる。
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