研究実績の概要 |
近年、世界各地で森林の分断化が急速に進行し、生物多様性の危機が深刻化している。森林の分断化は生物の生息地を狭めるだけでなく、生物の移動や遺伝子の流れを妨げて種を絶滅に追いやるなど、生物多様性に大きな影響を及ぼす。本研究では、樹木の共生微生物である外生菌根菌(以下、菌根菌)に着目して、森林の分断化が菌根菌の群集構造(種多様性・種組成)および遺伝構造(遺伝的多様性・遺伝組成)に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。本研究は、これまで動植物を対象として得られてきた生態学的知見を、微生物を用いて検証する新規性の高い研究である。 研究対象地には、最終氷期から長期にわたって高山に隔離されてきた歴史を持つハイマツ集団を設定し、共生する菌根菌を本研究の解析対象とした。国内における9カ所のハイマツ林において菌根を含む土壌を採取し、それら菌根から検出された菌種データを取得した。これに環境データ(土壌・気候)と地理情報を統合した多変量解析を実施し、環境に応じた菌根菌の種多様性や種組成の変化に関して考察を行った。分断化が及ぼす遺伝的影響を調べるため、マイクロサテライト領域を用いた集団遺伝解析を実施した。対象種には、胞子の分散様式の異なる2菌種(風散布:ベニハナイグチ、動物散布:ハイマツショウロ)を選んだ。既存のマーカーだけでは解析には不十分であったため、本研究において16マーカー(ハイマツショウロ8座, ベニハナイグチ5座, ハイマツ3座)を新たに開発して解析を実施した。 本年度は当初の計画通り、研究を遂行することができた。これらの成果はすでに国内および海外での学会(口頭・ポスター)において発表しており、現在は国際学術雑誌への投稿準備を進めている。
|