本年度の研究では、スピン自由度を持った量子多体系として最も基本的なものの1つである、spin-1 Bose-Hubbard modelにGutzwiller近似を適用した数値計算を行い、絶対零度と非零温度での相図を明らかにした。主な結果は以下の通りである。 ・絶対零度の相図:外部磁場がない系ではMott絶縁体相と超流動相の2つの相のみが見られたが、外部磁場下では、Mott絶縁体相に加えて、2つの超流動相が見られた。1つは磁化がない相であり、これを対応する連続系(光格子がない系)の場合の用語法に倣ってpolar相と呼ぶ。もう1つは外部磁場に対して垂直な磁化を持つ相であり、同様に、これをbroken-axisymmetry相と呼ぶ。 ・絶対零度の相図:2つの超流動相間の相転移は、87Rb(スピン依存相互作用が弱い)に対応するパラメーターでは連続であったが、7Li(スピン依存相互作用が強い)に対応するパラメーターでは不連続になることを見出した。この系に対応する連続系(光格子がない系)では、対応する2つの超流動相間の相転移は連続であり、大きく異なる。 ・非零温度の相図:7Liに対応するパラメーターと十分低い温度に対しては、絶対零度の場合と定性的に同様な相図が得られた。特に、2つの超流動相間の不連続な相転移が見られた。温度を上げていくと不連続相転移の領域は縮小することが分かった。 以上の結果に基づき、実験的にこの不連続相転移を観測するために必要な条件についても考察を行った。
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