研究実績の概要 |
神経樹状突起へのmRNA輸送および局所的翻訳は、シナプス強化ひいては長期記憶に重要であることが示唆されており、この分子機構の解明は記憶形成の理解進展において重要な課題である。本研究では、樹状突起へのmRNA輸送を担い、長期記憶に必須のRNA結合タンパク質RNG105に着目した。 これまでに、海馬樹状突起層に局在するmRNAの網羅的同定から、RNG105 の欠損により、Arf (ADP ribosylation factor) GEF, GAP mRNAの樹状突起層における局在が有意に低下することを見出した。また、神経初代培養系においてArf GEF/GAP mRNA群は各々、KCl刺激非依存的/依存的に樹状突起へ局在化し、これらmRNA群の樹状突起局在はRNG105欠損ニューロンで有意に低下した。 次に、神経初代培養細胞においてArf GEF, GAPをshRNAにより発現抑制させ、スパイン形成およびGluR1細胞表面発現への影響を解析した。その結果、特定のArf6,1 GEF, GAPの発現抑制により成熟型スパイン数・GluR1細胞表面発現が有意に低下した。一方、特定のArf6 GAPの発現抑制時には未成熟型スパイン数が増加した。これらの結果から、特定のArf6, 1 GEF, GAPはシナプス強化を正に制御し、別のArf6 GAPはシナプス強化を負に制御することが示唆された。以上より、Arf6, 1の活性・不活性型変換サイクルがシナプス強化に重要であり、また、Arf GEF, GAPの局所的翻訳はシナプス強化のみならずシナプス強弱の形成制御に関与するという新たな可能性が示唆された。 また、神経初代培養細胞におけるArf GEF, GAP mRNAの樹状突起への輸送解析から、輸送責任領域を同定した。更に、特定のArf6 GEF, GAPの輸送責任領域欠損マウス作製に着手した。
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