研究実績の概要 |
ATLの原因ウイルスであるHTLV-1は、生体内で主にCD4陽性T細胞に感染しており、その増殖を促進し、発がんへと導く。ATL細胞の増殖促進には、HTLV-1転写産物のうち全てのATLで発現するHBZが必須であると報告されてきた。しかし、HBZがT細胞特異的に増殖を促進し、発がんを誘導する機構はこれまで不明であった。 本研究では、HBZによる抑制性免疫補助受容体TIGIT, PD-1の機能不全がT細胞の増殖を促進させることを明らかにした。 通常T細胞の過剰な活性化は、細胞内でTIGIT, PD-1とSHP-2が結合し、TCRシグナル下流分子が脱リン酸化されることで抑制される。しかし、HBZ存在下ではTIGIT, PD-1とSHP-2の結合が阻害され、その結果TCRシグナルの活性が抑制されずT細胞の増殖は促進されることが明らかとなった。また、通常SHP-2はGrb2, THEMISと複合体を形成し、TIGIT, PD-1と結合するが、免疫沈降法によりHBZはTHEMISと結合し、SHP-2とTIGIT, PD-1との結合を阻害することも明らかにした。さらに、これまでHBZは主に核に局在すると報告されてきたが、免疫蛍光染色法によりTHEMIS存在下でHBZの局在が核から細胞質に移動することを明らかにした。また、THEMISの発現抑制はHBZの細胞質移動を阻害したことから、THEMISがHBZの局在を変化させる責任分子であることが示された。 本研究により、HBZはTHEMISによって細胞質に局在を変え、抑制性免疫補助受容体の機能を阻害することでT細胞の増殖を促進させることが明らかとなった。THEMISはT細胞特異的に発現する分子として知られており、本研究で明らかにしたHBZとTHEMISとの相互作用は、HTLV-1がT細胞特異的に増殖を促進させる機構の一つであると考えられた。
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