本研究は、財源規制に違反して自社株式買取を行ったことに関する取締役の職務上の注意義務違反の内容とは何かを明らかにすることが研究目的となる。 1年次前半までの研究で、本研究を進めていくには、会社法上の債権者保護に関する一般的な議論を優先的に確認する必要があるとの結論に至った。そこで、1年次後半~2年次にかけては、デラウェア州一般会社法(DGCL)上における一般的な債権者保護の議論を検討した。この検討の結果、DGCL上では、会社が債務超過であり、かつ、取締役の行為が会社財産の詐害的譲渡または偏頗行為にあたる場合には、取締役の責任が認められていることが明らかとなった。 また、2年次には、日本会社法において会社債権者保護の重要な手段である、会社法429条(旧商法二六六条ノ三第一項)に基づく取締役の責任追及に関する議論を検討した。検討の結果、取締役は、会社が債務を弁済できなくなる状態に至ることを合理的に予測し得たはずなのに漫然と経営を継続させた場合には、その責任が認められ、取締役の判断(裁量)が不合理だったとは言えない場合には責任が否定されることが確認された。 以上の検討結果を踏まえると、自社株式買取に関する職務上の注意義務違反の責任が問われうる場合として、財源規制に違反するとわかった上で当該自社株式買取を行い、かつ、当該自社株式買取が、会社財産の詐害的譲渡に相当する場合(例えば、株式買取の対象である株主と取締役が共謀して、不当に株式買取価格を釣上げる場合など)が考えられる。財源規制に違反したとしても、その責任を認めるべきではない場合としては、当該自社株式買取が、当該会社の利益のために不可欠であり、かつ、会社の債務を弁済する合理的な見通しが立っている、といった場合が考えられる。
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