本研究は、中華民国時期でも特に日中戦争期に、日本占領地に残留した中国知識人の日本認識を探るものである。当該時期の日本占領地のうち、北京・上海には多くの中国知識人が留まり、戦前と同様に文筆活動を継続したが、彼等の多くは日本軍や占領地政権と関係を持つとともに、文学者の戦争協力を目的とした大東亜文学者大会にも参加した。本研究は、こうした中国知識人たちの日本認識を探るとともに、彼らの戦時中の活動を明らかにするものである。 本年度は、主に次の二点から研究を進めた。 一点目は、昨年度から検討を加えていた陶亢徳という人物に関する追加調査である。陶亢徳は当該時期の上海文壇で活躍した編輯者であるが、日中戦争開始直後は香港で編輯者として活動を行っていた。これまで香港での陶の足跡は明らかにされておらず、本研究では香港時代に彼が刊行した雑誌や発表した言説について調査した。具体的には、香港大学図書館にて当該時期に彼が刊行した雑誌を数種閲覧することで、当該時期の陶の言論活動に検討を加えた。陶亢徳については、「陶亢徳と中華日報社―編輯者の側面に注目して」という論文を執筆し、本論文は2017年7月に学術誌に掲載された。 二点目は、当該時期の新聞『中華日報』に関する考察である。『中華日報』は汪精衛政権の機関紙として知られ、その文芸欄には当時上海文壇で活躍した知識人の名前が多数確認できる。さらに、同報にはこうした知識人たちの日本滞在記や回憶録が多くの掲載されており、本研究ではこの『中華日報』の新聞記事から、当時上海に残留した知識人たちの日本認識を探ることを目指した。本年度は、まず同報の文芸欄の一つであった『中華副刊』を取り上げ、この文芸欄の掲載内容の傾向・特徴について分析し、2017年10月には「「中華副刊」に見る占領下の文学活動」という題目で学会報告を行った。
|