研究実績の概要 |
本研究では,従来の生物モニタリングで用いられている形態同定に基づく種多様性評価に変わり,河川水中のDNAの次世代シーケンシング解析を行うことで,流域内の種多様性と各種の生息分布を迅速に評価する新規的な技術を開発することを目的としている. 今年度はまず,河川水からのDNA抽出手法の検討を行った.そして,最適であったDNA抽出手法を用いて,重信川を対象にした河川水の次世代DNA解析を行った.ここでは,重信川水系12地点から2Lの河川水を採集し, 0.2μmのメンブレンフィルターを用いて濾過した.次に,濾過に用いたフィルターを加熱滅菌した器具を用いて切り刻み,2時間のプロテナーゼK処理を経て,フェノール・クロロホルム法によるDNA抽出を行った.この手法で得られたDNAにはPCR阻害物質が多量に含まれており,以降の実験を阻害する恐れがある.そのため,カラム精製によりこれらの物質を取り除いた.続いて,Cytochrome Oxidase I 領域のPCR増幅し,次世代シーケンサーMiSeqを用いてPCR産物中のDNA塩基配列の解読を行った.最後にDNAデータベースを活用してDNAの由来となった生物種名の検索を行った. 種名が得られた配列は393,749配列であり,そのうち昆虫網は56,025配列と約14%であった.また昆虫網の中でも最も多数の配列が得られたのは陸生昆虫が大部分を占めるチョウ目であった.このことから,本手法により水生生物のみならず,陸生の生物の多様性も評価できる可能性が示された.その一方で,河川水中の環境DNA解析を用いた水生昆虫の種多様性評価を効果的に行うためには,対象分類群のDNAを濃縮する手法の開発が必要と考えられる.
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