研究実績の概要 |
前年度に行なった「ヒト内在性レトロウイルス由来転写調節エレメントの網羅的同定」の研究成果を、論文としてまとめ、一流国際雑誌「PLoS Genetics」から出版した。 本年度は、悪性腫瘍において異常に活性化したHERVを同定するため、TCGAコンソーシアムの提供する12種類の腫瘍由来の5,550人分のRNA-Seqデータおよびその他オミクスデータの統合解析解析を行った。 解析の結果、12種の腫瘍から、10,060か所の発現するHERVを同定した。大部分の腫瘍においてHERV発現のゲノム全体的な活性化が見られたが、その活性化の度合いは患者ごとに異なっていた。このようなゲノム全体的なHERV活性化レベルの違いが腫瘍の遺伝子発現パターンに及ぼす影響を明らかにするため、次にHERVと発現相関を示すヒト遺伝子を調べた。その結果、全種類の腫瘍において共通して、 HERVの発現量はKRAB-zinc finger protein (KZFP) 遺伝子ファミリーの発現量と正の相関を示すこと、また一方で、細胞周期、免疫応答、および細胞接着関連遺伝子の発現量と負の相関を示すことを明らかにした。なお、KZFP遺伝子ファミリーは霊長類において遺伝子数を増大した抑制性転写因子ファミリーの1つであり、ヒトゲノム中には認識配列の異なる約350種のKZFPが存在する。 さらなる解析の結果、HERV-REの異常活性化によりKZFP遺伝子の発現が促進されること、さらにはKZFPOの発現上昇により細胞周期、免疫応答、および細胞接着関連遺伝子等の腫瘍の形質に重要な遺伝子の転写が抑制されることを明らかにした。
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