| 研究実績の概要 |
本年度は前年度と引き続き多様なPG分子種の存在意義の解明を目的として、有機合成した特殊なホスファチジルグリセロール（PG）を用いた実験を行った。脂肪酸結合部位をエーテル結合に改変した、細胞内で代謝できないエーテル型PGを作製した。さらにエーテル型PGのsn-2位を様々な飽和脂肪酸に改変し（sn-1位は18:2の脂肪酸で固定）、それをSynechocystis sp. PCC 6803のPG合成欠損株（pgsA株）と共に培養した。この変異株はエーテル型PGを培地から取り込み、生育できることが明らかになった。前年度は主に、細胞の増殖速度と光合成活性を中心に解析を行ったため、本年度は合成PGを利用したときの細胞の膜構造の変化を調査した。
PGのsn-2位を12:0, 14:0, 16:0, 18:0, 20:0の脂肪酸に改変したエーテル型PGを培地に添加して、pgsA変異株を7日間培養した。pgsA変異株では7日間目的のPGを添加して培養することで、細胞内のPGが完全に置き換わることがわかっている。培養液から各変異株の細胞を遠心によって回収し、細胞の形状や細胞内の微細構造を電子顕微鏡で観察した。その結果、16:0よりも短鎖の飽和脂肪酸導入したエーテル型PGを添加して培養した細胞では、細胞全体の大きさが若干ではあるが大きくなっていた。また、特に12:0の脂肪酸を導入したエーテル型PGの場合は、チラコイド膜が細胞の中心に介入する傾向があった。しかし、エーテル型PGを取り込んだ細胞の全てでチラコイド膜の形成はある程度維持されていることから、PGのsn-2位の脂肪酸種の変化がチラコイド膜形成に重大な影響を与えないことが明らかになった。
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