研究実績の概要 |
Grignard反応剤は安価で汎用性が高く、調製も容易な利便性の高いアルキル付加剤である。しかし、Grignard反応剤は会合しやすく、会合により反応性がしばしば低下し、複数の反応点を持つ基質への選択的な付加反応を制御することは極めて困難である。例えば、多重共役エステルは環境のよく似た反応点が存在し、Grignard反応剤のみでは位置選択性の制御をすることは困難である。そこで、平成28年度の研究では、Grignard反応剤と塩化亜鉛から系中で調製される亜鉛アート錯体を用いる、多重共役エステルへの位置選択的アルキル付加反応の開発を行った。この際、亜鉛アート錯体のイオン対としての特長を最大限に活用するため、マロン酸由来の多重共役エステルを基質として設計した。検討の結果、亜鉛アート錯体のタイトイオンペア特性に基づく位置選択性(1,4-)が発現し、様々なアルキル基を1,4-選択的に導入することができた。さらに、基質の末端にエトキシ基を導入すると、1,6-選択的に反応が進行した。これは、亜鉛アート錯体のカチオン部位がジエステル部位にキレーションすることで、エトキシ基から電子が流れ、オキソニウムイオンエノラート中間体が形成され、亜鉛アート錯体のイオン対が解離したことを示唆している。この共役分子構造における位置制御技術は、視覚障害の治療効果があるレチナール誘導体の簡便かつ高効率的合成法として期待される。 さらに、不斉触媒的アルキル付加を目指し、新奇大環状配位子の開発にも着手した。具体的には、光学活性ビナフトールの3,3’位を単純なアルキル鎖で結んだビナフトール配位子を設計し、リチウムアセチリドを用いるケトンへのアルキニル付加反応を検討した。その結果、従来の非環状配位子と比較して異常に高い触媒活性を示し、高エナンチオ選択的に目的の第三級プロパルギルアルコールが得られた。
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