本研究は通常の状態より高い価数を持つ異常高原子価イオンに注目し、それの配列次元を制御することで新奇な物質・物性を開拓することを目的として行った。これまでの成果として異常高原子価Feイオンが二次元状に配列した層状ダブルペロブスカイトCa2FeMnO6を合成し、二次元状に配列したFeであっても低温で電荷不均化することを明らかにしてきた。本年度は、Ca2FeMnO6と同一の組成を持ち、FeとMnの秩序構造を持たないBサイト無秩序ペロブスカイトCaFe0.5Mn0.5O3を新規に合成し層状ダブルペロブスカイトCa2FeMnO6と比較することで秩序構造が物性にどのような影響を与えているのかを検証した。実験の結果、層状ダブルペロブスカイトCa2FeMnO6のノンコリアーな磁気構造はFeとMnの秩序構造に由来することが明らかになった。加えて、Bサイト無秩序のCaFe0.5Mn0.5O3ではFe4+とMnが無秩序に配列しているにもかかわらず、電荷不均化することが分かった。 異常高原子価イオンはその不安定性から電荷不均化やサイト間電荷移動といった電子相転移を起こす。そこで、異常高原子価Feイオンが電荷不均化するCaFeO3にサイト間電荷移動のカウンターカチオンとしてBiを置換したペロブスカイト構造酸化物Ca0.5Bi0.5FeO3を合成し、そこでどのような電子相転移が起こるのかを調べた。この物質は室温から温度を下げていくと250 Kと200 Kで逐次的に構造相転移を起こす。メスバウアー分光測定やBond Valence Sumの計算を行なったところ、これら各温度での転移は異常高原子価Feイオンによる電荷不均化とBi-Feイオン間におけるサイト間電荷移動が関与していることが明らかとなった。このような形で電荷不均化とサイト間電荷移動が逐次的におこる物質はこれまで知られておらず、新奇な物質である。
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