研究課題
特別研究員奨励費
報告者は「習慣化の反応抑制阻害における機能的回路シフトの電気生理学的検証」という課題の下、ストップシグナル課題を用いた、ラット大脳皮質からの神経活動の記録・解析を行っている。昨年度は、「行動が充分に習熟したときの反応抑制の評価とその神経機構の検証」を主な目標として研究を実施した。一般に、動物は行動の急な抑制が必要になる環境では、その行動の開始を遅らせることで最適化を行う。このような環境に依存した行動の遅延はプロアクティブ抑制と呼ばれている。この抑制は、環境の変化が課題スケジュールのブロック単位のような長期的なときも、直前のトライアルだけのようなときにも起こるが(ブロック単位、トライアル単位のプロアクティブ抑制)、両者の神経機構の違いはこれまで分かっていなかった。プロアクティブ抑制の障害は、各種精神疾患で頻繁に観察される症状であることから、この行動抑制の神経機構の正確な理解は、精神疾患の病態を把握する上でも非常に重要であった。昨年度に報告者は、行動の実行が充分に訓練されたラットで、新たに開発したストップシグナル課題中にブロック単位、トライアル単位のプロアクティブ抑制がいずれも誘導できることを観察した。このときの大脳皮質の各領域の神経活動を解析すると、一次運動皮質、二次運動皮質および後部頭頂皮質のRSニューロン(主に興奮性ニューロンから構成されるニューロン群)で、ブロック単位とトライアル単位のプロアクティブ抑制の間で異なる修飾を受けていることが分かった。この結果は、類似のプロアクティブ抑制でも、環境の変化のタイムスケールが異なると、それぞれ別々の神経機構が関わっている可能性を示している。また、単一ニューロンデータに基づいた詳細なプロアクティブ抑制の研究は過去に例がなく、今回の研究結果はプロアクティブ抑制の回路レベルの神経機構を解明する上で非常に重要な知見だと考えられる。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Cerebral Cortex
巻: Feb. 10 号: 7 ページ: 1-14
10.1093/cercor/bhx031