熱輻射光源は様々な波長の光源として広く利用されるが,広帯域な輻射を示すためにパワー利用効率が低く,かつ輻射強度の上限が同温度の黒体輻射強度で制限される.本研究では,全赤外帯域で狭帯域に発光する熱輻射光源を開発するとともに,近接場光を利用して黒体輻射強度を超える熱輻射パワーの利用を可能とすることを目的としている.今年度の研究では,前者に関して,波長3-5um帯(中波長赤外線帯域)で狭帯域な熱輻射スペクトルを実現するため,同帯域でサブバンド間遷移による光吸収が得られるGaN/AlGaN量子井戸を材料として利用し,そこにフォトニック結晶構造を導入して共振作用により特定の波長の吸収率を増大することを検討した.作製に用いた量子井戸構造はGaN 3nm/Al0.4Ga0.6N 3nmの50周期構造からなり,波長4.1um付近にサブバンド間遷移による光吸収を示すことを,数値計算・実験の両面から確認した.フォトニック結晶構造は,上記のサブバンド間遷移による吸収帯域内に,単一の光共振モードが形成されるように,格子定数・ロッド半径を調整することで設計を行った.光源の作製においては,Si(111)基板上に成長したGaNエピウエハを利用し,フォトニック結晶構造は電子線描画およびドライエッチング法により作製した.作製光源をAr雰囲気化で600℃に加熱して熱輻射スペクトルの測定を行った結果、波長4.0um(波数2500cm-1)において,発光線幅が黒体輻射スペクトルの1/100程度に相当する狭帯域なスペクトルが確認された.今後は,作製光源の面積の拡大,動作波長域の拡大(3-10um),pn接合の導入による電圧変調動作を実現することが求められる.
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