研究実績の概要 |
認知的時間知覚に共通する神経基盤として補足運動野(SMA)が知られており,この領域は随伴性陰性変動(CNV)などの時間知覚に関連した電気生理学的神経活動のジェネレータと考えられている(e.g., Wiener, 2010; Kononowicz & Penney, 2016)。先行研究で我々は聴覚的時間的同化現象を用いた脳波及び脳磁図計測を行い,刺激の時間長を記憶する際にCNVと思われる陰性成分が頭皮中心部に現れることを示した(Mitsudo, et al., 2014; Hironaga, et al., 2017)。これまでの研究で課題として用いている時間的同化現象は複数の感覚モダリティで生起するため(Arao, et al., 2000; Nakajima, et al., 2004; Hasuo, et al., 2014; Nagaike, et al., 2016),同一の心理現象に対する脳活動を異なる感覚刺激を用いて検討可能である。採用第3年度目は体性感覚刺激を用い,これまで関心領域として検討していた側頭・前頭部に加え,時間知覚に関連すると考えられているその他の脳領域(SMA,DLPFC, ACG)の活動を調べることにより,脳内での時間知覚メカニズムに関連するネットワークについてさらに詳細に検討した。右利き健常成人22名(うち3名除外)を対象にNeuromag社製306チャンネル全頭型脳磁界計測装置を用いて実験を実施した。解析の結果,聴覚における先行研究で活動のあった頭頂側頭接合部(TPJ),下前頭皮質(IFG)において触覚でも時間判断に伴う活動の亢進が見られた。これら2つの領域は感覚入力に依存せず時間知覚や錯覚処理に固有の活動を行っている可能性がある。更に,新たに検討した運動前野(PMC)で触覚条件においてのみ錯覚及び時間知覚に関連した活動が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
TPJ,IFGは聴覚と触覚で類似した活動を示した。これら2つの領域は頭頂―前頭ネットワーク内でモダリティ非依存で時間知覚(錯覚)処理に関連する可能性がある。新たに検討した運動前野(PMC)で錯覚及び時間知覚に関連した活動が確認された。PMCやIPLといった運動関連領域は予期(Temporal expectation)との関わりが強いとされている。PMCの中でも背側部(Dorsal premotor)は素早い運動を必要とする時間予測課題等で活性化(Praamstra, et al.,2006; Sakai, et al.,2000; Dreher, et al.,2002; Chen, et al.,2006)するとされ,腹側部(Ventral premotor)は短い時間での知覚時間弁別課題で活性化(Grahn, et al.,2007; Schubotz, et al.,2001; 2003)するとされる。今後は,現在までのデータに基づき,時間縮小錯覚生起時にTPJ,PMC,IFGといった領域で生じる活動を時空間的にマッピングし,錯覚機序のメカニズムの理解を目指す。聴覚のDLPF, SMA, ACCの解析結果を合わせて2つのモダリティでの結果を比較し,異種感覚での時間知覚・錯覚メカニズムについての統合的な考察を行う。
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