研究課題
基盤研究(C)
2022年度の実績は、主に次の3点である。(1)本研究の根幹となる上代文学および日本古代文化における古代中国の医療思想の受容について人文学的なアプローチから著書をまとめるとともに、(2)神社仏閣およびその周辺地域における薬草調査をふまえて、(3)医学・薬学・生物学・生命科学系アプローチを行ったことである。(1)は、研究代表者の毛利が『日本書紀の知と道教医療思想』(万葉書房)を刊行した。また、神社仏閣およびその周辺地域における歴史的文化的背景をふまえた薬草の分布・役割という毛利の仮説の元、研究協力者の中尾と分担して実施した(2)の調査を元に、(3)は中尾が医学・薬学・生物学・生命科学系の視点から、国内外の研究者とのディスカッションをふまえつつ、研究成果として形作るべく準備を進めてきた。2022年度の特筆すべき点は、毛利は(1)で段階的に成果を公開できたこと、そして中尾は科研費研究員として、(2)および(3)において、国内外での情報交換・発信を重ね、一定の成果を得たことである。なお、2022年9月に発表された世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルス感染症を巡る見解から、医療人文学研究が活発な欧米への入国制限が撤廃されることも現実的になったことも、成果をまとめるにあたっての判断材料となった。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者および研究協力者は、(1)「医療人文学」研究の理論構築のための基礎的研究、(2)本研究課題の調査研究実施、(3)関連研究者とのネットワーク構築、情報交換に従事した。新型コロナウイルス感染症影響下での研究として拙速になることなく、「医療人文学」の研究手法を確立し、その大前提となるテキストと医療について人文学的アプローチからの成果を刊行することができたこと、また、国内外の研究者と研究成果についてディスカッションを行い、成果発表の場を確保できたことは、良い実績であった。なお、2022年度も引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響によって対外的な研究交流は停滞したが、9月に発表された世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルス感染症を巡る見解によって、成果報告の方法についても選択肢が広がり、準備を進めることができたことから、「おおむね順調に進展している」とする評価が妥当であると考えた。
今後の研究の推進方策として、(1)「医療人文学」としての文学生成理論をまとめ、(2)関連研究者および海外研究機関、研究者とのネットワーク構築、情報交換に従事する。(1)については、研究協力者と分担して、医療と人文学の学問的発展のためのインターディシプリナリーアプローチの確立を目指した「医療人文学」研究について、補完が必要な医学・薬学・生物学・生命科学系アプローチを強化し、(2)については、国際カンファレンスでの発表を含めた成果をまとめるとともに、文理融合の「医療人文学」発信、そして研究会の構築を目指す。2023年5月に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて出していた「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言終了に伴い、特に欧米への入国制限が解除されたことは、研究を推進する上でも意義があり、成果報告に向けて、追加調査をふまえた上で、整理・分析をする。
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